「人を増やさず、仕組みを増やす」——これは、このサイトで何度も出てくる言葉です。ひとり社長やマイクロ法人の実務を考えるうえで、私(MEE)が背骨にしている考え方でもあります。ただ、言葉だけが独り歩きすると誤解も生まれます。ここで一度、自分の言葉で整理しておきます。
「人を増やさない」という意味ではない
まず誤解をほどいておきます。これは「人を雇うな」「ずっとひとりでいろ」という主張ではありません。人を増やすことは、事業が成長すれば自然な選択です。
そうではなく、これは 順番 の話です。何かに手が回らなくなったとき、反射的に「人を増やそう」と考える前に、「これは仕組みで解けないか」を先に問う。その一拍を挟むだけで、ひとりの負荷はずいぶん変わります。人に頼るのは、仕組みにできないことに絞りたい——それがこの言葉の本当の中身です。
「仕組みを増やす」って、結局ずっとひとりで頑張れということですか?
いえ、逆です。仕組みに任せられるところを任せるほど、人に頼るべき場面がはっきりします。
仕組みとは「もう一度考えなくていい状態」
では「仕組み」とは何でしょうか。私は、もう一度ゼロから考えなくていい状態 のことだと捉えています。
一度うまくいったやり方を、手順・基準・ひな型のかたちで外に出しておく。すると次に同じ場面が来たとき、記憶や気力に頼らず、それをなぞるだけで済みます。判断の量が減り、抜け漏れも減る。これが仕組みの効果です。逆に、毎回その場で考え、毎回思い出しながらやっている状態は、どれだけ本人が優秀でも消耗します。
仕事を仕組みに変える手順
では、目の前の作業をどう仕組みに変えるか。難しく考える必要はありません。次の順番でほどいていきます。
- くり返しを見つける毎月・毎回やっている作業を書き出す
- 一度ていねいにやる次に活かせるよう、手順をメモしながら進める
- 型に落とす手順・判断基準・ひな型のかたちで外に出す
- 置き場所を決める毎回、目に入る場所に置く
- 使って直す実際に使いながら、合わない部分だけ更新する
ポイントは、いきなり完璧な仕組みを作ろうとしないことです。一度ていねいにやった記録が、そのまま次の型になる。凝った仕組みより、毎回見る場所に置いてある素朴なメモのほうが、たいてい長く生き残ります。
増やす前に、立ち止まる
もうひとつ大事なのが、「増やす前に立ち止まる」習慣です。作業でも、ツールでも、人でも、何かを増やしたくなったとき、次のように考えます。
- その作業は、今後もくり返すか?
- くり返すなら、判断の基準を言葉にできるか?
- 言葉にできるなら「型」にして自分で回す
- 単純なくり返しなら、道具に任せられないか考える
- 一度きり・例外的なことだけ、都度ていねいにやる
この問いを通すと、「増やすしかない」と思っていたことの多くが、実は仕組みで軽くできると気づきます。そして本当に人の力が要る場面——判断、関係づくり、専門的な最終確認など——が、くっきり見えてきます。
「雇う」の前に、コストと仕組みを見る
これは、人を雇うかどうかの場面でも同じです。手が回らなくなってくると、「そろそろ人を雇おうか」と考えるのは自然なことですし、雇うこと自体、事業を前に進めるための正しい選択肢のひとつです。ただ、雇う前に一度だけ、実際にかかるものと、仕組みにできる部分を見ておくと、判断がより確かになります。「雇うな」ではなく、「雇う前に、仕組みにできる部分を見ておく」という話です。
雇用は、給与だけでは終わりません。 人をひとり迎えると、かかるのは給与だけではありません。社会保険の会社負担、採用にかける時間と費用、仕事を覚えてもらうまでの教育、机や機材といった固定費——給与に、さまざまな費用が上乗せされます。額面だけで考えると、実際の負担を小さく見積もってしまいがちです。「人件費は給与の何倍」という言い方をされることもありますが、業種や条件で幅があります。大事なのは、額面より実際は大きくなる、という感覚を持っておくことです。
お金以外の負担もあります。 仕事を教え、任せ、見て、関係を保つ——ひとりで手を動かす負荷とは種類の違う、人と向き合う負荷が加わります。責任も増えます。これは悪いことではありませんが、雇う前に見込んでおきたい部分です。
だからこそ、まず「仕組みにできる部分」を見ます。 手が回らないと感じたときは、反射的に人を増やす前に、その作業を一度見てみます。前の節と同じ問いです——これはくり返すか。基準を言葉にできるか。定型でくり返す作業なら、ソフトや道具、ひな型で代替できることが少なくありません。
- その作業は、これからもくり返すか
- 判断の基準を、言葉にできるか
- ソフト・道具・ひな型で代替できないか
- 給与以外の負担(社会保険・採用・教育・固定費)も含めて考えたか
- 人でなければ難しいのは、どの部分か
こうして見ていくと、「雇うしかない」と思っていたことの一部は、仕組みで軽くできると気づくことがあります。そのうえで人を迎えるなら、その判断はより納得のいくものになります。
仕組みが増えると、何が変わるか
仕組みが少しずつ増えていくと、日々の感触が変わります。
- 迷いが減る — 「どうやるんだっけ」を思い出す時間がなくなります。
- 抜けが減る — 手順やチェックに載せておけば、忙しい時期でも落としにくくなります。
- 余白が生まれる — 定型で消耗しない分、判断や新しい取り組みに気力を回せます。
一つひとつは小さな差ですが、毎月・毎年くり返される作業だからこそ、積み上がると大きな違いになります。
架空モデルケース
これは考え方の使い方を示すための架空のモデルケースです。 実在の人物・事業ではありません。
たとえば、毎月の請求書づくりに追われている人がいるとします。反射的には「誰かに頼みたい」と思う場面です。しかしここで立ち止まり、「これはくり返すか?(毎月くり返す)」「基準を言葉にできるか?(金額と項目のルールは決まっている)」と問うと、これは 人 ではなく 仕組み で解ける作業だと分かります。ひな型と手順を一度作れば、以後は毎月それをなぞるだけ。空いた気力は、断るか受けるかの判断や、取引先との関係づくりに回せます。——これが「まず仕組みで解けないかを先に問う」ということです。
それでも、人に頼るとき
もちろん、仕組みにできないこともあります。込み入った判断、専門的な最終確認、信頼関係の上に成り立つ仕事。こうしたものは、無理に仕組み化しようとせず、人の力を借りるべき領域です。
大事なのは、仕組みでよいところを仕組みに任せているからこそ、人の力を本当に必要なところに集中できる ということです。「人を増やさず、仕組みを増やす」は、人を遠ざける考え方ではなく、人の力を大切に使うための考え方でもあります。
まとめ
「人を増やさず、仕組みを増やす」とは、人を雇わない主義ではなく、まず仕組みで解けないかを先に問う という順番の習慣です。くり返す作業から手順・基準・ひな型に落とし、増やす前に一拍立ち止まる。それだけで、ひとりの実務はずいぶん軽くなります。
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